吉村昭「破獄」、獄を破ろうとしたものは何か
吉村昭さんの小説「破獄」。以前に読んだことがあるのですが、ハードカバー版が売っていたので購入。そして再読しました。
「破獄」は昭和の脱獄王と呼ばれた人物(白鳥由栄。作中では佐久間清太郎)を取り上げた小説。登場人物はすべて仮名ですが、元警察関係者から聞いた話や行刑史などをもとに執筆しているので、ほぼノンフィクションと言える内容ですね。
|ω・`) で、
以前読んだ時には、「味噌汁の塩分で柵や枷を腐食させた」、「両手両足を突っぱねて壁を登った」、「鉄製のタガでのこぎりを作って床下から逃げた」とか、その手法にばかり目を奪われたのですが、再読すると、
|゚Д゚)) 北海道開拓や戦時下の生活がよくわかるじゃないですか
視点を変えて読んでみると、タイトルの「破獄」には深い意味が込められていることに気がつきました。
「脱獄王vs看守」という図式や脱獄という行為だけでなく、戦時による徴兵、戦時中の空襲、戦中戦後の食糧事情、占領軍の掲げる民主主義など、社会全体が刑務所のシステムを崩壊させようとしていたさまを描いており、それを「破獄」という2文字に集約。獄を破ろうとしていたのは佐久間個人だけではなかったんですね。タイトルの秀逸さに気が付き、
( ゚Д゚ノノ☆パチパチパチパチ
と拍手しちゃいました。脱獄囚に焦点を当てながらも、刑務所のシステムの崩壊を通して戦中戦後の日本社会の崩壊を描きだす。吉村昭さんならではの手腕だとその凄さを再確認しました。
評価は☆5。脱獄王の物語としても興味深いですが、戦時中の生活や戦後の混乱に関しても深く知ることができる小説ですね。
北海道網走市に博物館網走監獄なる施設があるそうなので、一生のうち一度は訪れてみたいなと思いました。
博物館網走監獄
http://www.kangoku.jp/
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