『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』を読みました
門田隆将さんのルポ『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』を読みました。これは山口県母子殺害事件について、被害者家族の立場から事件を捉えたノンフィクションものです。
事件については、すでに多くの人が知っているかと思いますが、被害者である本村さんが抱えていた病気や事件後の心境、職場の上司をはじめとする周囲のサポートと、本書で初めて語られる要素も多いですね。何よりも、被害者家族の苦悩というものについて知ることができると思います。
さて、本の内容を見てみると、事件について触れる一方で、「少年犯罪に関する匿名報道」、「相場主義で判決を下す裁判」、「被害者よりも加害者を保護する法律」など、現在の報道や裁判制度が抱える問題といったものを指摘する内容ともなっています。
こういった指摘すべてを本村洋さんの意見としてみるか、著者である門田隆将さんの考えが組み込まれているとみるか微妙なところですが(本の構成や文体から見て、第三者的な見地からなるルポルタージュではなく、恣意的な要素が多々含まれていると感じたので…)、ほとんどの人が、「渡邉裁判長への不信」、「安田好弘ら弁護団に対する憤り」を感じると思います。
吉村昭さんのようなあくまでも第三者的なスタンスでのルポルタージュ(事実を述べるだけにとどめ、判断を読者にゆだねるタイプ)を好む私としては、門田隆将さんの思想(または本村洋さん寄りの立場である)というものを極力文体などから排除する形で構成したほうが良かったのではないかと感じました。読んでいる間中、「門田隆将さんというフィルターを通している」という感じがしてならなかったので。
被害者および遺族に対する同情、社会の不条理さなどから読書中は涙することが多かったのですが、読後感は、複雑な感じ。自分の中で何かがひっかかっているわけです。「美談にしようとしているんじゃないか」、「事件そのものを伝えることよりも、裁判制度や弁護士制度を改革するために事件を利用しようとして出版されたんじゃないか」などなど。事件のインパクトの陰に隠れてしまっていますが、自分の頭の中で本能が警報を発しているわけですね。時期をおいて再読し、自分の中で一体何が引っ掛かっているのかを探ってみたいと思います。
【追記】
『光市事件裁判を考える』(現代人文社編集部)を読むと、違った情報を得られそうなので、こちらも読んでみようと思います。
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